
山代 生さん
Sho Yamashiro
コーヒー焙煎業
昔ながらの森の暮らしを営み、土地の時間をつなぐ末角神楽の後継者
PROFILE
2000年生まれ。宮古市(旧川井村)出身。島根県立隠岐島前高等学校在学中は、3年間寮生活を送る。2019年同校を卒業後Uターン。タイマグラの自宅で両親が営む民宿「フィールドノート」を働きつつ、コーヒーの焙煎、販売をスタート。両親と猫と共に昔ながらの山小屋生活を送っている。2022年、地域に伝わる末角(まっかく)神楽保存会に入会。若き後継者として、日々練習に励む。
郷土芸能は特別ではなく、生活と地続きであるもの
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山代さんの家は、ご両親が宿を営んでらっしゃるんですよね。
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はい。旧川井村の江繋、タイマグラという森の中の集落で民宿を営んでいます。戦後間もなく、この集落が開拓された際に建てられた山小屋に、大阪出身の父親が移り住んで宿にしました。タイマグラは、日本で最後に電気が通った場所と言われているところなんです。
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森の中の暮らしは、どのような生活なんですか?
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今も水道は来ていませんので、お風呂は湧き水を引いて木桶の湯船に溜め、薪で沸かすんです。湧き水を山からホースで引いて水を溜め、お昼すぎから火を入れて、少しずつ薪をくべて火を消さないようにしながら約4時間。もちろん薪を割ったりする作業もあります。お風呂ひとつでもそういう感じ。お客さんがいる日もいない日も同じことをします。

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街の暮らしとはぜんぜん違いますね。では、お仕事の内容を教えてください。
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宿の補助的な仕事と、コーヒーの焙煎、雑穀農家でアルバイトもしています。だいたい午前中はアルバイトに行き、午後はコーヒーの仕事をしたり宿の仕事をしたり。コーヒー焙煎は、自宅に作業小屋があり、手回し焙煎機を使って行っています。
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お仕事のやりがいや嬉しいことはなんですか?
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仕事と生活の線引きが難しいんですけれど、生まれ育った居心地のいい場所に身を置いて生活していることが、自分にとってのやりがいであり喜びですね。

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日々の暮らしやお仕事をされる中で、大変なことはありますか?
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山での暮らしは魅力も多い反面、不便さもあります。水源地から約100mの長さのパイプで水を引いていますが、冬にはパイプが凍ってしまうこともあるんですよ。そうなると水が使えなくなってしまいますから、パイプを全部外して、川の水につけて、何時間もかけて溶かさなくてはいけない。復旧させるのに数日かかることもあるので、冷たい川で作業していると、泣きたくなることもあります。でも、その作業をしているときに、いい景色に出会ったりして。山暮らしには、良さも不便さも両方あります。
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今後の夢や展望を教えてください。
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今はコーヒーをネット中心に販売していますが、将来的には、地元でコーヒーを飲める場所をつくり、人が自然に集えるような場を持てたらいいなと思っています。

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では、余暇の過ごし方について教えてください。
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趣味は写真を撮ることや読書、映画鑑賞です。あと、数年前に末角神楽の保存会に入って活動しています。メンバーは現在10人くらい。地元の神社のお祭りで奉納したり、盛岡や県外など、呼んでいただいた場所で神楽を舞っています。
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神楽を始めたきっかけを教えてください。
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農家のアルバイト先で、神楽をしている方と出会ったことがきっかけです。子どもの頃に郷土芸能に触れる機会は多く、興味はあったものの、自分から始める勇気がなかったんですよね。でも、「練習しているから見に来たら?」と誘っていただき、見に行ったら、そのまま踊りに参加することになったんですよ。
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どんなところに楽しさや魅力を感じますか?
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郷土芸能に対して思い入れが強いので、言葉にするのは難しいですね。200年以上続いてきた神楽の歴史に、自分が関われることがまず尊いことだなと思います。会の皆さんも、自分たちの活動にすごく誇りをもっていらして。この場所にしかないものっていろいろありますが、神楽はその最たるものなんですよね。地元への思いや誇りで続いてきた文化に関われていることも、大きな魅力だと思っています。
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どんなところに苦労しましたか?
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最初は踊りを覚えることに苦労しました。ダンスのように音楽に合わせて踊るのではなく、神楽は踊りに合わせてお囃子が入るんですよ。なので、自分が止まると音も止まっちゃう。なので、踊りの軸をしっかりさせるために、順番を身につけるまでに時間がかかりました。また、現在は、後継者不足という課題もあり、少ない人数で活動を続けながら、この先どう次の世代へつないでいくかという難しさも感じています。

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人を増やすためにどのような努力をしていますか?
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まず自分自身が楽しみながら続けることを大切にしています。日常の中に、神楽が当たり前に続いている姿を見てもらうことが、次の世代につながっていくのではないかと思っています。
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ご自身の性格や性質と合う部分はどんなところですか?
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最初に習った踊りが、長寿を祝う穏やかな演目で、自分の性格に合っていると感じています。神楽には激しい踊りもありますが、師匠がその人の性格や雰囲気を見て、演目を託していくことが多く、私には落ち着いた表現の踊りが合っているだろう、と選んでいただきました。踊りも人を選ぶ部分があるところが、神楽の面白さだと感じています。
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そのコミュニティを宮古でする利点や良さはなんですか?
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宮古で神楽を続ける良さは、郷土芸能が特別なものではなく、普段の暮らしと地続きであるところだと思います。地域でそれぞれの仕事や生活をしながら、祭りや発表のときに集まって一つの踊りを作り上げる。その自然な関わりの一員としていられることが嬉しいですね。
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宮古での暮らしの満足ポイントを教えて下さい。
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生まれ育った自然の中で暮らせることです。季節や景色の移り変わりを日々感じられる、そういう生活の軸があることに満足を感じています。

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山代さんにとって、ふるさととは?
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生まれ育った場所でもありますし、神楽など、地域との関わりの中で、少しずつ自分の居場所になってきた場所でもあります。
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山代さんにとっての希望とは?
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将来を考えると厳しい面もありますが、この場所で暮らしている人がいて、好きな神楽があって、ここに住み続けたいと思っている自分がいる。それを楽しいと思えるし、自分の心が豊かであれば、それは希望というものかなって思います。
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Uターンを考えている人たちにメッセージを。
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一度地元を離れて外の世界を見ることって大事だと思うんですよね。いきなりUターンを考えなくても、外に出て違った視点を持ったうえで、旅人気分でちょっと戻ってきてみるのもいいんじゃないかなと思います。
2026年1月取材


